「乾的除染収納袋『ホタテ』の開発」について
乾的除染収納袋『ホタテ』の開発について
姫路市とアゼアスが2025年3月13日、同日にプレスリリースをした姫路市消防局とアゼアスの共同開発製品、
乾的除染収納袋『ホタテ』 その開発がどのように進められたか、素材の透過性試験から製品デザインなど、開発の過程を紹介します。
目次
乾的除染収納袋 開発の背景
姫路市消防局からのご相談から、乾的除染収納袋『ホタテ』の製品開発はスタートしました。
「化学物質の漏洩やテロなどの特殊災害時、要救助者の汚染が疑われる場面で、乾的除染後の衣類等を安全に移動・保管をする為の、専用の収納袋を共同開発したい。」
姫路市消防局は化学防護服の採用インタビュー等で、日ごろよりお世話になっており、詳しくお話を伺う事になりました。
乾的除染とは
除染の工程は「脱衣→即時・緊急除染(拭き取り等)→放水除染→専門除染」に分けられ、段階を踏むことでより除染効果は高まります。
このうち「脱衣」と「即時・緊急除染」が乾的除染にあたります。
PRISM(Primary Response Incident Scene Management)※1では、脱衣によって汚染割合が10%、即時・緊急除染によって汚染割合が1%まで低下し、段階を経ていくことで、限りなく100%に近い除染が可能とされています。
最も効果のある除染は脱衣であり、乾的除染収納袋『ホタテ』は被災者が脱いだ衣類を管理する為の製品です。
※1 英国のハートフォードシャー大学のロバート・チルコット教授等によりまとめられた除染のガイドライン
製品開発当初の要望事項
① 素材要件
・神経材等の化学剤やTIC(有毒産業化学物質)を透過させない、耐透過性能の高い素材
② サイズ・形状
・縦80cm × 横65cm(市販の45Lゴミ袋くらいのサイズ)
③ 開口部の仕様
・布団圧縮袋のようなスライダー付きダブルジッパーで、開閉・密閉が簡単にできるもの
・両端に小型のプラスチックバックルを取り付ける(防水バックのように複数回巻いて密閉度を高め、取手としても活用)
④ 色調
・内容物が確認できることとプライバシー保護の観点から、半透明のもの
⑤ 管理
・袋の表面に記入用ラベルを貼り付け、内容物や所有者情報を明示可能にする
⑥ 価格
・多数の救助者に対応できるよう、低価格で大量購入しやすいこと
製品開発の経緯
● 素材の選定
「乾的除染収納袋」開発の可能性を検討した時に、まず最初に考えなくてはならなかったのは、素材の選定でした。
① 神経剤等の化学剤やTICを透過させないもの
アゼアスは防護服のメーカーです。そのこともあって防護服を納めさせて頂いている当社に開発のお声が掛かりました。
一番に頭に思い浮かんだのは化学防護服の素材です。消防や警察、自衛隊に広く供給させて頂いている防護服、デュポン™タイケム™6000の素材です。
こちらの素材は耐透過性能データが豊富で、当社製品への採用実績があり、今回の製品の開発には一番の近道でした。
しかしながら、
④ 内容物が確認できることとプライバシー保護の観点から 、半透明のもの
⑥ 低価格で大量購入しやすいこと
の要望には合いません。
④⑥ の要望を満たすためにはフィルム素材の袋の成型が必要で、かつ①の耐透過性能を保持している必要があります。
そこで、プラスチックフィルムの中から、低価格でありながら耐透過性能がありそうなものを選別し、厚みや複合素材の組み合わせも検討した素材、数種類にあたりをつけ、耐透過性試験を行いながら選別していく方法を採用しました。
● 耐透過性試験
フィルムメーカーの協力により、用意した候補素材の耐透過性試験を行いました。
① の要望にあるような、神経剤等の化学剤やTIC(有毒産業化学物質)を使用した試験は試薬の調達からして困難です。
特に化学兵器 (CWA)に使用される神経剤等の化学剤は、試験方法として該当するような規格が見つからず、現在は更新されていない規格ですが、日本消防設備安全センターの「救助隊用化学防護服 CFASDM 003:2013」より、β-クロルジエチルサルファイド[CAS: 693-07-2](化学剤の擬剤)を使用する試験方法を採用しました。試験はカケンテストセンターに依頼しました。

カケンテストセンターでの試験の様子
TIC(有毒産業化学物質)についても、同じくCFASDM 003:2013に記載の標準化学物質について、JIS T 8030(化学防護服-防護服材料の耐透過性試験)に準拠した試験方法で試験を進めました。試験は自社のアゼアス防護服Laboで行いました。
研究拠点「アゼアス 防護服 Labo」のご紹介|防護服の知恵.com (b-chie.com)


「アセトン」と「トルエン」開放回路系試験の様子 「硫酸」「水酸化ナトリウム」閉鎖回路系試験の様子
候補素材はいずれも試験を合格しましたが、試験以外の素材性能や加工、生産効率を考慮し3層の複合素材を採用しました。
● 製品の仕様
② 縦80cm × 横65cmで、概ね市販の45Lゴミ袋くらいのサイズ
冬場の重装備でも対応出来るような大きさのもの、袋の中に入って脱衣する事も想定される為、自立可能なように底マチを希望されました。
大きさはクリアしましたが、底マチを付けるとコストが上がってしまう為、採用を見送りました。袋は人が中に入った場合は自立するので希望には応えられます。
③ 開口部の仕様
・布団圧縮袋のようなスライダー付きダブルジッパーで、開閉・密閉が簡単にできるもの。
スライダーとダブルジッパーを採用しました。布団圧縮袋と違うところは、圧縮して中の空気を外に出してはいけない事です。ダブルジッパーによる密閉状態が中からの圧力に耐える必要があります。
・防水バック仕様
開口部両端に小型の プラスチックバックルを取り付け(防水バッグのような仕様)の要望に対しては、フィルム製袋の製法では出来ない為、採用を断念しました。
⑤ 袋の表面に記入用ラベルを貼り付け、内容物や所有者情報を明示可能にする。
製品の運用上、汚染された衣料が複数の機関を移動して保管される可能性がある為、持ち主と被災状況の記録が必要です。
トリアージタグを参考に、2枚複写式のシールタイプのラベルを用意しました。

なぜ、愛称がHOTATE?
特殊災害時用の「乾的除染収納袋」ですが、現場で呼びやすい名称があった方が良いのでは?との思いから、考えられたのが「ホタテ」です。
危険区域(ホットゾーン)や危険(ホット)な物質からの盾=毒から守る「ホット+タテ HOTATE」、
これに加えてホタテの殻のように硬く閉じることができること、ホタテ貝殻のもつ化学物質の分解除去作用のイメージも合致することから、決定しました。
ロゴデザインはホタテを抱えた消防ラッコのイメージキャラクターを添えています。

おわりに
製品発売に先立って2025年3月24日に姫路市消防局姫路西消防署にて報道向けに製品説明と乾的除染のデモンストレーション(脱衣から収納までの流れ)を行いました。

化学物質の自律的管理やリスクアセスメントの実施が義務づけられる流れの中で、工場や人が多く集まる大規模イベント等での特殊災害に対応する為の備えが必要です。
今後は実際の訓練や各機関のご意見を伺いながら、乾的除染収納袋『ホタテ』の運用について情報を更新する予定です。
※参考資料
化学災害又は生物災害時における消防機関が行う活動マニュアル(令和6年3月改正 消防庁国民保護・防災部参事官付)
製品情報
本記事で紹介した製品の詳細はリンク先からご確認ください。


