「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

化学実験用手袋の耐薬品性とは

はじめに

 みなさん、化学実験する際の保護手袋は何を使用していますか?多くの化学系の実験室では、使い捨てのニトリル手袋を利用されていると思います。では、そのニトリル手袋の耐薬品性はご存知でしょうか?

 化学実験の際に一般的に着用されるニトリル手袋は、多くの有機溶媒に対して耐性が無く、耐性の無い有機溶媒が手袋についてしまうと有機溶媒が透過してしまったり、付着部分が破れたりする等の物理的な破損が起きてしまうといった危険性があります。そのため、手袋を着用した手に有機溶媒がかかったときは、ただちに手袋を外して手を洗浄し、新しい手袋を着用することが望ましいです。

 この記事では、ニトリル手袋を含めた実験時に使用される手袋の耐薬品性についてお話ししようと思います。

 

※掲載内容はChem-Station掲載の「ニトリル手袋は有機溶媒に弱い?」を基に加筆・修正を行い作成しています。

 

試験値から見る実験用手袋の耐薬品性と物理的適性

 下の表は、 Honeywell 社が自社の保護手袋の耐薬品性を調査した結果を一部抜粋したものです。

 

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

 

●表内用語の説明

劣化D:Degradation):1つまたは複数の手袋の物理的特性に生じる有害な変化を指します。劣化の最も顕著な形としては、手袋の強度の低下や極端な膨張が見られます。

優秀(E:Excellent):ばく露による影響はほとんどないか、皆無です。長時間のばく露でも手袋の特性が失われません。

(G:Good):長時間のばく露で軽微な影響があります。短時間のばく露による影響はほとんどないか皆無です。

(F:Fair):ばく露により手袋に中程度の劣化が生じます。短時間のばく露の後でも手袋を使用できますが、ばく露が長時間にわたる場合には注意が必要です。

(P:Poor):短時間のばく露で中程度の劣化から完全な破損状態を引き起こします。

破過時間BTBreakthrough time液体の薬品が手袋の外側表面に最初に接触してから透過率が0.1 ㎍/㎠/minに達するまでに経過した時間を指します。

 

●物理的適性の説明

Honeywell社は、上述のデータをもとに、それぞれの溶媒に対する手袋の物理的適性を3種に分類しています。

緑色薬品への全面浸漬に対し有効です。

黄色偶発的な飛沫からの保護、断続的な接触に有効です。

赤色使用には細心の注意が必要です。短時間のばく露で手袋が機能を失います。

・塗りつぶされていない箇所:試験結果が不十分なため、判断ができない場合、もしくは未評価を示します。

 

●保護手袋の耐薬品性の比較

ニトリル手袋は無機の酸・塩基に対しては一定の耐薬品性能を有していますが、有機化合物に対する防護性能はほとんどないことが分かります。

バイトン®手袋は、塩素化合物及び芳香族の溶剤に対する、優れた耐薬品性能を備えていると言われています。 

 

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

 

ブチル手袋は、気体や蒸気に対してもっとも強力な耐透過性を備え、特に有害物質を取り扱う際に作業者を保護します。

シルバーシールド™手袋はポリエチレンとEVOHで構成された素材で出来ており、アルコール・脂肪族化合物・塩素系溶剤・ケトン・エステル等、280種類以上の薬品に耐性があり、今回紹介する手袋の中では一番耐薬品性能に優れています。

 

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

 

 保護手袋を選定する場合は、使用する化学物質に対して十分な透過データを保有し、かつ物理的適性に対しても優れた素材のものを使用することが重要になります。

 

無害な有機溶媒が手にかかっても無害?

 ところで、アセトン等の溶媒は、毒性がそれほど高くない溶媒として知られています。それらの溶媒が保護手袋を浸透・透過して手に接触しても問題ないと言えるでしょうか?

 答えは No です。

 なぜなら、その溶媒が溶かしている化合物も、一緒に手袋素材を透過する危険性があるからです。したがって、もし毒性化合物の取り扱い中に被液した場合は、ただちに実験を中断し、手早くかつ安全に手袋を外し、SDS(安全データシート)の「応急措置」に書かれている内容に沿った除染を行ってください。

 

おわりに

 化学実験を安全に行うために使用する化学物質に合った耐透過性を持つ化学防護手袋を使用し、コスト節約のための使用済手袋の再使用は回避してください。

 化学者にとって毒性化合物を扱うことは避けられない場合もあります。重要なのは、むやみやたらに毒性化合物を避けることではなく、毒性について正しい知識を身につけた上で、安全に毒性化合物を扱うことです。化学物質の毒性について知るには各メーカーのHPもしくは厚生労働省がSDSを公表しているのでそれを活用し、自分の扱う化合物の毒性や安全性についてもう一度見直してみてはいかがでしょうか?

 「防護服の知恵.com」では、バイトン®手袋、ブチル手袋、シルバーシールド™手袋の透過データを「ケミカルデータベース」で確認することが可能です。是非ご活用ください。(データの閲覧には会員登録が必要です)

 


製品情報

本記事で紹介した製品の詳細はリンク先からご確認ください。

●ニトリル手袋

ニトリルラテックス手袋 LA132

ニトリル手袋 US11205

●ブチル手袋

ブチル手袋 B131R

ブチル手袋 B174R

●バイトン®手袋

バイトン®手袋 F284

●シルバーシールド™手袋

シルバーシールド™手袋 SSG


記事協力

・Chem-Station「ニトリル手袋は有機溶媒に弱い?」(2021/6/16 掲載)

参考資料

・日本ハネウェル株式会社:耐薬品性ガイド HJSTS-0001-04

 

※Viton®、バイトン®は米国デュポン社の関連会社の登録商標です。Silver Shield™、シルバーシールド™はHoneywell社の商標です。


 

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