「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

※この記事は2023年5月の「化学実験用手袋の耐薬品性とは」を改稿したものです

化学実験用手袋の耐薬品性とは

はじめに

 化学実験を行う際、着用する保護手袋はどのような理由で選定されていますでしょうか。

手頃で安価な使い捨てのニトリル手袋を着用されていることが多いと考えられます。では、そのニトリル手袋の耐薬品性についてご存知でしょうか。

化学実験の際に着用頻度の高いニトリル手袋ですが、実は薄手のニトリル手袋は多くの有機化合物に対して耐性がほとんどありません。

 

 耐性のない手袋を使用した場合、有機化合物が手袋を透過してしまったり、付着部分が破れたりする等の物理的な破損が起きてしまうといった危険性があります。そのため、手袋を着用した手に有機化合物がかかった際は、ただちに手袋を外して手を洗浄し、新しい手袋を着用してください。

 

この記事ではニトリル手袋を含めた実験時に使用される手袋の耐薬品性についてご説明します。

 

※掲載内容はChem-Station掲載の「ニトリル手袋は有機溶媒に弱い?」を基に加筆・修正を行い作成しています。

 

化学実験用手袋の耐薬品性とは

 化学実験用手袋の耐薬品性とは、手袋が化学物質に接触した際の物質の透過、またその化学物質による劣化や損傷に耐える性質を指します。実験者の安全を確保し、化学物質から手を保護する重要な機能です。

 

 耐薬品性は、手袋の材質や化学物質の種類、濃度、接触時間などによって大きく変化します。そのため、化学実験を行う際は、取り扱う物質に適した耐薬品性を持つ手袋を選択することが、安全な実験環境を整える上で不可欠な要素となります。

 

試験値から見る化学実験用手袋の耐薬品性と物理的適性

下の表は、 Honeywell社及びAnsell社の保護手袋の耐薬品性を調査した結果を一部抜粋したものです。

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

 

●保護手袋の耐薬品性の比較

ニトリル手袋は無機の酸・塩基に対しては一定の耐薬品性能を有していますが、多くの有機化合物に対する耐薬品性能はほとんどないことが分かります。

バイトン®手袋は、塩素化合物及び芳香族の溶剤に対する、優れた耐薬品性能を備えていると言われています。

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

ブチル手袋は、気体や蒸気に対して強力な耐透過性を備え、特に有害物質を取り扱う際に作業者を保護します。

シルバーシールド™手袋はポリエチレンとEVOHで構成された素材で出来ており、アルコール・脂肪族化合物・塩素系溶剤・ケトン・エステル等、280種類以上の薬品に耐性があり耐薬品性能に優れています。

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

AlphaTec® 02‑100ラミネート安全手袋は5層構造で、幅広い化学物質から保護し、EN Type Aの耐化学性基準を満たします。

AlphaTec® 15‑554 耐液性/耐化学性手袋は、有機化合物の取り扱いに適した手袋であり、芳香族および塩素系溶剤にはほとんど不活性です。

AlphaTec® 29‑865ネオプレン手袋はケースハードニング加工が施されており、耐摩耗性と、油、酸、アルコール、腐食剤、溶剤などの化学的危険に対する耐性が強化されています。

「化学実験用手袋の耐薬品性」とは

保護手袋を選定する場合は、使用する化学物質に対して十分な透過データを保有し、かつ物理的適性に対しても優れた素材のものを使用することが重要になります。

 

化学実験用手袋の正しい使用方法

 取扱説明書等に掲載されている耐透過性クラス等を参考に、作業に余裕を持った使用可能時間を予め設定し、その設定時間を限度に保護手袋を使用しましょう。

 保護手袋に付着した化学物質は、透過が進行し続けるので、作業を中断した場合でも使用時間を延長してはいけません。

また、乾燥、洗浄等を行っても化学防護手袋の内部に侵入している化学物質は除去できないので、使用可能時間を超えた保護手袋は再使用してはいけません。

 

化学実験用手袋の保守管理上の留意事項

 予備の保護手袋を常時備え置き、適時交換して使用できるようにしましょう。

保管する際は 直射日光を避け、高温多湿を避けて冷暗所に保管してください。また、オゾンを発生する機器

(モーター類、殺菌灯等)の近くには保管しないでください。

その他、使用する製品の取扱説明書の記載をご確認下さい。

 

おわりに

 化学実験を安全に行うために、使用する化学物質に合った耐透過性を持つ保護手袋を使用し、コスト節約のための使用済手袋の再使用は回避してください。

 化学者にとって有機化合物を扱うことは避けられない場合もあります。重要なのは、むやみやたらに有機化合物を避けることではなく、有害性について正しい知識を身につけた上で、安全に有機化合物を扱うことです。化学物質の有害性について知るには各メーカーのHPもしくは厚生労働省がSDSを公表しているので、それを活用し、自分の扱う化合物の有害性についてもう一度見直してみてはいかがでしょうか?

 「防護服の知恵.com」では、バイトン®手袋、ブチル手袋、シルバーシールド™、AlphaTec®手袋の透過データを「ケミカルデータベース」で確認することが可能です。是非ご活用ください。(データの閲覧には会員登録が必要です)

 


製品情報

本記事で紹介した製品の詳細はリンク先からご確認ください。

●ニトリル手袋

ニトリルラテックス手袋 LA132

ニトリル手袋 US11205

●ブチル手袋

ブチル手袋 B131R

ブチル手袋 B174R

●バイトン®手袋

バイトン®手袋 F284

●シルバーシールド™手袋

シルバーシールド™手袋 SSG

AlphaTec®手袋

 

AlphaTec® 02‑100手袋 

AlphaTec® 15‑554手袋

AlphaTec® 29‑865手袋 


記事協力

・Chem-Station「ニトリル手袋は有機溶媒に弱い?」(2021/6/16 掲載)

参考資料

・日本ハネウェル株式会社:耐薬品性ガイド HJSTS-0001-04

 

※Viton®、バイトン®は米国デュポン社の関連会社の登録商標です。

Silver Shield™、シルバーシールド™はHoneywell社の商標です。

アンセル、® および ™ は、アンセルまたはその関連会社が所有する商標です。


 

おすすめ記事